最終更新:2022.10.8
当院における舌下免疫療法について
はじめに
スギ花粉症・ダニアレルギーに対して現在行われている舌下免疫療法に用いるお薬は、スギ花粉症に対してはシダキュア®が、ダニによるアレルギー性鼻炎に対してはミティキュア®、アシテア®があります。
スギ花粉症に対しては、当院でも治療を完了した方が増え、強い副作用が出て中止されたかたもおられますが、ほとんどの方は一定以上の軽症化がみられました。
当初の想定より舌下免疫療法は効果がある印象で、例年通常の処方薬ではコントロールが難しい方は検討してみてよいようです。
ダニに対しては、口腔内の副反応が強いことと、治療効果の実感がわかりにくいといわれていますが、国内で普及しつつあります。
舌下免疫療法に当たっては非常に多くのことを理解していただく必要があり、診療時間中に十分な説明は難しいのが実情です。
そこでこの治療法についてご説明しておくべき事を以下にまとめました。
この治療を検討される方は、以下の説明をよくお読みになって、ご希望がありましたら来院の上ご相談ください。
ただし、詳細にありますが、スギ花粉の飛散期からスギの舌下免疫療法を開始することはできません。
なお、具体的な治療上の指示は、他の医療機関では一部で異なる対応となることがあります。以下は当院における対応を述べたものであり、他の医療機関で治療を受ける方は、必ず治療を受ける医療機関で詳細を確認して下さい。
「アレルゲン免疫療法の手引き(日本アレルギー学会 2021年改訂版)を参考として、これまで治療できないとしていた一部の条件について、ご相談のうえ場合によって治療可能としました。
製薬メーカーのホームページをご覧下さい
舌下免疫療法について、まずはシダキュア®、ミティキュア®の発売元である鳥居薬品と、アシテア®の販売元である塩野義製薬の一般向けに解説しているホームページをご覧下さい。
どちらかの製薬会社の記事を一通りご覧になれば十分です。
舌下免疫療法の概要は理解していただけたと思いますが、治療の流れや舌下免疫療法に特徴的な注意点について以下で説明します。
治療の流れ
- 1.治療の開始にあたり、血液検査の必要がある方は診断に2回の受診が必要となります。
- ・舌下免役療法では、治療対象以外のアレルゲンに対するIgE値の高い方の治療上の安全性と有効性は不明となっています。 このため治療前の血中IgE検査の際に、スギ、ハウスダスト・ダニ、カビ・スギ以外のIgE値を測定して、医師と相談することをおすすめします。
- 2.治療開始日は、治療法や副反応出現時の対応の理解度についてや治療前の花粉症の程度についての問診や説明を受けます。
- 3.治療の開始時は1回目の服用を院内で行います。(服用後30分、院内待機となります。)
- 4.特に治療開始後1か月は、いずれの薬剤においてもほぼ全例で口腔内違和感、痒み、軽い腫れは起こるといわれていますので、その予防・症状緩和目的に抗ヒスタミン剤の内服をしていただきます。
- 5.舌下免疫療法中も、鼻炎症状に対しては内服や点鼻薬・点眼薬で治療します。
- 6.開始1年半~2年後に治療効果を判定し、さらに継続するかどうか医師と相談します。 合計で3~5年間継続することが望ましいとされています。その間は毎月1回はご本人の受診が必要です。
- 7.効果があった場合は、数年以上効果が持続すると言われていますが、治療後数年して効果がなくなった場合、再度同様の舌下免疫療法を行うことができます。
- 3.治療の開始時は1回目の服用を院内で行います。(服用後30分、院内待機となります。)
舌下免疫療法の特徴・注意点
- 1.舌下免疫療法は、数年続けてみても全く効果がないこともあります。
現在では効果の有無の事前予測はできません。- 2.副反応が起こる可能性があります。稀にアナフィラキシーを起こす可能性もあります。
- 3.風邪(インフルエンザ)や、体調不良、歯科治療等で、治療を一時中止・再開することを自分で判断していく必要があります。
- 4.前項の「治療の流れ 6~7」の通り治療期間は長期間になりますが、効果も数年以上持続するとされています。
- 2.副反応が起こる可能性があります。稀にアナフィラキシーを起こす可能性もあります。
治療開始時期について
ミティキュア®は1年を通じていつからでも治療を開始できますが、花粉症のある方は、その季節は避けて始めた方が良いでしょう。
シダキュア®は、スギ花粉の飛散期は治療を開始することは出来ません。ただし、治療開始後はスギ花粉飛散期も服薬を継続します。
前掲の「治療の流れ」の4.の通り、両剤とも初めの1か月は口腔内の副作用は必発であるといわれており、スギ花粉の時期のみならず、初夏のイネ科や秋のブタクサ等キク科などの花粉症がある方は、それらの発症時期は副作用がより出やすい上に重症化する懸念があります。
また冬期は、どなたでも風邪をひきやすく、インフルエンザ等も流行し、新規に治療開始した場合に、特に副作用が出やすい始めの1か月を順調に服薬し続けられるかは考慮が必要なところです。
以上の条件を考慮し、これまでの経験をふまえると、両剤とも7~9月中の開始が無難と思われます。
具体的には、治療開始にあたって医師と相談の上開始時期を決めます。
舌下免疫療法の対象者について
自分でスギ花粉症と思っていても、全員が対象になるわけではありません。また、他の病気などで受けられないこともあります。
スギに対する治療の対象者
以下の3つの条件を全て満たす方。
- 1.過去数年、スギ花粉の飛散期に、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目の痒みなどの症状が1週間以上続き、花粉の飛散終了とともに治まる。
- 2.血液検査で、スギ花粉IgEがクラス2以上。
- ・スギ花粉IgE検査を受けたのが2年以上前の方は再検査となります。
- ・他の医療機関で行ったスギ花粉IgE検査結果の報告書をなくされた方は再検査となります。
- 3.小児の場合は、治療薬剤を適切に服薬できること。
- ・臨床試験は5歳以上を対象に行われました。
ダニに対する治療の対象者
以下の3つの条件を全て満たす方。
- 1.通年性に、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目の痒みなどの症状がある。
- 2.血液検査で、ダニIgEがクラス2以上。
- ・ダニIgE検査を受けたのが2年以上前の方は再検査となります。
- ・他の医療機関で行ったダニIgE検査結果の報告書をなくされた方は再検査となります。
- 3.小児の場合は、治療薬剤を適切に服薬できること。
- ・臨床試験は5歳以上を対象に行われました。
舌下免疫療法ができない疾患等
以下のいずれかに当てはまる方。
- それぞれの治療薬で過去にアナフィラキシーショックを起こしたことがある。
- β-阻害薬、三環系抗うつ薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬を服用中。
- 重症の喘息。
- 全身のステロイド(内服または注射)治療をしているか予定がある。
- がんなどの悪性腫瘍の治療中。
- 急性 ・慢性 感染症の治療中。
- 自己免疫疾患。
- 妊娠中。
医師と相談を要する要件
以下のいずれかに当てはまる方。
「アレルゲン免疫療法の手引き(日本アレルギー学会 2021年改訂版)」を参考として、(条件緩和)と追記された状況のある方については、ご相談のうえ、場合により治療可能としました。
- それぞれの治療薬で過去にアレルギー症状(アナフィラキシーショックを除く)を起こしたことがある。(条件緩和)
- β-阻害薬、三環系抗うつ薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬を服用中。(条件緩和)
- がんなどの悪性腫瘍の治療中。(条件緩和)
- 自己免疫疾患。(条件緩和)
- 慢性感染症の治療中。(条件緩和)
- 以前にスギ花粉またはダニの皮下免疫療法をおこなったことがある。
- 高血圧症をはじめ心臓血管疾患がある。
- 口腔アレルギー症候群がある。
- 歯科治療中、もしくは長期にわたる歯科治療の予定がある。
- 自己免疫疾患のご家族がいる。
- 転勤が頻繁にあり、転勤先で加療を継続できる保証がない。
- 治療期間中に、転勤や進学による転居や時間の確保などの都合で治療を継続できなくなる可能性がある。
毎日の服用手順等
それぞれの薬剤別に鳥居薬品の説明のページがありますので、ご覧ください。
動画を見るというコンテンツもありますので一度ご覧になってください。また、それぞれの「医師に相談すべき時」もよくお読みください。
注意点についてもう少し一般的なことを以下に示しておきます。
- 服用前・後2時間は、激しい運動や入浴は避ける必要があります。学生の場合は体育の授業を考慮して服用時間を調整する必要があります。
- 特に服用後30分は副反応が出やすいので椅子に座って安静を保ちます。副反応の起きた時の事を考え朝の服用が望ましいです。また周りに家族等がいることが望ましいです。
- 治療期間中は、渡された服用者カードをいつも持ち歩いて下さい。
当日の服用を中止する時
服用前に体調を確認し、以下のような自覚症状がある日は服用を中止してください。
- 喘息症状が出ている。(処方されている発作止めで症状が落ち着いたとしてもその日は中止する)
- 風邪をひいた、ひどく疲れている等体調が悪い。
- 口内炎がある、口の中に違和感がある、歯槽膿漏等口の中の病気がある。
- 歯科治療中。
問題がなくなったら服用を再開します。但し中止期間が2週間以上になった場合は自己判断で再開せず、再診の上再開方法を検討し、院内で再開の内服をします。
当院としましては、中止後2週間を超えて再開するときは、来院していただき、院内で服薬することで治療を再開することをおすすめします。
服用後に副反応が出た場合の対応
軽い口腔内症状のみの場合
軽い口腔内症状(口の中・舌・口唇が腫れたり痒みがでる)が出現し他の症状がない場合は、あらかじめ処方しておく抗ヒスタミン剤を服用してしばらく安静にして下さい。症状がすぐに治まる程度なら、翌日以降の服薬は体調に注意しつつ継続してください。症状がひどくて心配な場合は受診して下さい。
アナフィラキシーを疑わせる症状がでた場合
軽い口腔内の症状だけでもすぐに治まらない場合や、アナフィラキシーの際の症状が出現した場合は、速やかに医療機関を受診して下さい。
症状がひどくなっていく場合や、体の複数部位に症状が出現してきたら、すぐに救急車を依頼(119番)して下さい。
この際「服用者カード」を提示して、舌下免疫療法治療薬を服用して具合が悪くなったことを救急隊や受診した医療機関に必ず伝えて下さい。
これら副反応時の対応については、治療開始前に医師と具体的に相談しておく必要があります。
その他(Q&A)
- Q.費用はどのくらいかかりますか。
- A.アレルゲン検査時は、診察料等をあわせて6,000円ほどかかります。その後投薬が始まると、月に1,500円程度かかります。その他内服薬の処方があると別途かかります。
また、シダトレン®で治療をされていた方がシダキュア®に変更されると、月の自己負担額が3割負担の方で90円高くなります。 - Q.スギ花粉以外のアレルギーもありますが、スギの舌下免疫療法はできますか。
- A.可能です。
- Q.年齢の上限はありますか。
- A.海外の報告では、高齢者でも治療効果があり副反応も特に増えなかったとされ、年齢の上限はありません。
- Q.治療中に妊娠した場合はどうするのですか。また授乳はできますか。
- A.妊娠中に開始はできませんが、開始後に妊娠してもそのまま治療の継続は可能です。但し、何らかの理由で中断した場合に再開するのは危険と思われ、舌下免疫治療は中止することをおすすめします。
- ・授乳に関しては、添付文書上「治療中は授乳を避けさせること。」とされており、治療を継続するならば人工乳での育児を指示せざるを得ません。
- 注:シダトレン®の臨床試験中に妊娠された2名は治療を中止されました。
- Q.歯科治療で中断しなければいけないのは、どの程度の治療なのですか。
- A.抜歯後傷がふさがるまでや出血を伴った治療後で微量ながら出血が継続している期間は必ず中止してください。
- ・歯根治療中で歯の仮詰が取れてしまった場合も、再度歯科を受診して詰め直すまでは中止してください。
- Q.旅行に行く時はどうするのですか。
- A.国内旅行であれば持参して服用を続けて下さい。ただし体調不良を自覚したら中止して帰宅後再開して下さい。
- ・海外旅行の場合は、副反応発症時の医療体制に不安があるので中断すべきです。
- ・再開するに当たっては、帰宅後でも旅行疲れを自覚している時は数日様子を見て、十分に体調が回復してから再開して下さい。
- ・旅行中は、薬剤を温度が高い自動車内などに長時間放置しないように注意してください。
- ・長期の旅行を計画されたり、ご心配な時は事前にご相談下さい。
- ・頻繁に海外旅行(出張)をされる方は、舌下免疫療法を行うかどうか自体を慎重にご検討ください。
- Q.中断後再開する時が不安なのですが。
- A.再開1回目が特に副反応が出やすいと思われるので、心配でしたら来院して院内で再開の内服をする事も可能です。
- Q.副反応の予防法はないのですか。
- A.治療開始1か月以上経っても不安でしたら、抗ヒスタミン剤を併用してシダキュア®やミティキュア®を服用することも可能です。
最後に
舌下免疫治療を受けるに当たってはアレルギー免疫についての基礎知識と、その最も重篤な症状であるアナフィラキシーを理解しておくことが重要です。
舌下免疫療法はスギ花粉症や通年性のダニアレルギーの寛解や軽症化のみならず、喘息の発症予防や他のアレルゲンによるアレルギー疾患の予防になる可能性があり、従来の内服薬にはない治療効果を秘めています。
その一方で、治療が長期にわたり、また全ての方に効く保証がなく、副反応の問題もあります。
これらのことを考慮すると、この治療法を無条件にお勧めすることはできませんが、通常の処方薬では日常生活に支障が出るような方は検討に値するとも言えます。
ご希望の方はお問い合わせいただくか、受診の際にご相談下さい。